~ 作品の仕上がりを左右する「水彩紙」~
水彩の道具として「筆」「絵の具」「水彩紙」などがありますが、この中でも特に重要なのが「水彩紙」です。
水彩画は、水の力を利用して描きます。
絵具と水の滲みや、混ざり合いが偶然の美しさを生み出すのが水彩の大きな魅力ですが、この繊細な表現を支える土台となるのが「水彩紙」なのです。
水彩の技法が上手くいかない時も、水彩紙を変えてみると上手くいったりします。
この記事では、初心者の方がそんな大切な水彩紙を選ぶ時に、必要な知識や選ぶポイント、おすすめの水彩紙について解説します。
水彩紙選びに迷っている方は、参考にしてみてくださいね!

作品の仕上がりを左右するポイントとなる「水彩紙選び」について水彩初心者の方に分かりやすく解説しています。
水彩の技法が上手く描けない
そんな方に参考にしていただける内容になっています。
水彩紙と画用紙との違いとは?


水彩画専用の水彩紙って結構お値段が高いですよね。
初心者の方が、水彩画を始めようとするとき、「とりあえず家にある画用紙で描いてみようかな」ということもあると思います。



画用紙に描いたらダメなのかな?
確かに、画用紙は身近で手に入りやすく、子どものころから慣れ親しんでいる紙です。
しかし、水彩絵の具を使って本格的に絵を描こうとすると、画用紙ではどうしても物足りなさや、描きづらさを感じることが多くなります。
それはなぜか?
その答えは、「水彩紙」と「画用紙」の構造や特性の違いにあります。
まず、画用紙は主にクレヨンや色鉛筆、パステルなどの乾いた画材に向いて作られていて、水分を多く含む水彩絵の具にはあまり適していません。
画用紙は比較的薄く、水を吸う力も弱いため、水をたっぷり使って描くとすぐに紙が波打ってしまったり、破れたり、裏写りしたりすることがあります。
さらに、絵の具が紙の上でうまく広がらず、にじみやぼかしなどの水彩ならではの表現が難しくなるのです。
一方で、水彩紙は水をたっぷり使って描けるように、厚みがあり、水分をしっかりと受け止められる構造になっています。
紙の表面には「サイジング」と呼ばれるにじみ止め加工が施されており、水や絵の具が紙にすぐ吸い込まれるのを防ぎ、絵の具が紙の上で広がって美しくにじんだり、グラデーションを作ったりするのに適しています。
初心者の方こそ、専用の水彩紙を使って水彩の楽しさを感じていただければと思います。



水彩専用の水彩紙に描くのが上達へのポイントですね!
水彩紙ってどんな紙?


では、水彩画にとって、そんな重要な役割を持っている水彩紙の基礎知識について解説してみます。



作品の出来栄えを左右するのが水彩紙なんだね。



いろんな種類の水彩紙が販売されていますので、それぞれの紙の特徴を知ることで、ご自身の作品にピッタリの水彩紙を選ぶことができますよ。
水彩紙の材質
水彩紙の材質には、大きく分けて
① 木材パルプ
② コットンパルプ
③ コットンパルプ + 木材パルプ
この3種類があり、それぞれについて主な特徴があります。
<木材パルプ>
・木材繊維を材料として作られている水彩紙。
・コットンと比べると、吸水性が劣るので、絵の具のにじみが輪じみになったり、エッジができやすい。
・重ね塗りをすると、下に塗った色がはげ落ちやすい。その反面、水筆で絵の具が拭き取りやすいので(リフティングがしやすい)、描いたあとでもある程度の修正ができる。
・値段はコットンと比べて安いので、初心者の方には使いやすい紙。
<コットンパルプ>
・コットンを材料として作られている水彩紙。
・保水性が良く、ゆっくり乾くので、絵の具のにじみやグラデーションの技法に適している。
・絵の具が拭き取りにくいので(リフティングがしにくい)、描いたあとは修正がしにくい。
・紙の表面が強いので、リフティングなどの技法でこすっても紙面が荒れにくい。
・塗った色が紙に定着しやすく、重ね塗りがしっかりできる。
・値段が高い。
<コットンパルプ+木材パルプ>
・コットンとパルプの両方を材料として作られている。
・コットンとパルプの特徴を少しずつ併せ持つ。
・値段は、コットンほどは高くないので、お手頃価格。
水彩紙の肌目(粗目・中目・細目)
水彩紙の表面には、デコボコしたおうとつがあり、デコボコの大きさの小さい物から順番に
⇒「細目」<「中目」<「荒目」
主にこの3種類がありますが、「中目」の表示の紙でも「荒目」寄りだったりなど、水彩紙のブランドによって多少の違いがあります。
<細目>
「細目」は、ボタニカルアートなど、繊細な表現の作品に向いています。
<中目>
一般的に透明水彩に向いているのは「中目」で、初心者の方にはおすすめです。
<荒目>
「荒目」はダイナミックな表現の作品や、ドライブラシの技法を多く使う場合などに適しています。
水彩紙のサイズ
水彩紙に良く使われるサイズとして「F(Figure)」「P(Paysage)」「M(Marine)」があります。
・F(Figure)
人物画によく使われるサイズ
・P(Paysage)
風景画によく使われるサイズ
・M(Marine)
海景によく使われるサイズ
とされていますが、この中でも「Fサイズ」が一般的によく使われているサイズです。



その他、次のようなサイズもありますよ。
・A4・B5 など
パッドで販売されている水彩紙は、コピー用紙サイズのように「A判・B判」サイズで販売されているものもあります。
・ハガキサイズ
様々な種類のブランドの水彩紙でハガキサイズがあります。初心者の方は水彩紙選びに迷ったときには、安く購入できるはがきサイズで試してみるのも良いですね。1つのパッケージの中に数種類のブランドの水彩紙がセットになった「アソートタイプ」もありますので、お試しには便利です。
・八切・四切・半切・全判 など
これは画用紙サイズですが、このサイズにカットされたシートで販売されている場合もあります。
水彩紙の厚み
水彩紙の厚みは、坪量(1平方メートルあたり)の重さで表示されていて、この数値が大きいほど紙に厚みがあるということになります。
おすすめの紙の厚みは ⇒「300g/㎡」
水彩紙は、紙の厚みのある方が絵の具の水分で波打ちにくくなりますので、できれば「300g/㎡」と表示されている水彩紙を選ぶと描きやすいです。
厚みが「200g/㎡」以下になると水分でデコボコになりやすいです。
但し、水彩紙のお値段は厚みがあるほど高くなります。
水彩紙の綴じ方の種類
販売されている水彩紙の綴じ方の種類にもいろいろあります。
初心者さんにおすすめなのは、「ブロック」「パッド」「スケッチブック」です。
・ブロック
紙の四方が糊で固められていて、作品が出来上がってから紙を剥がします。側面が糊付けされているため水張りが不要で、手軽に作品を描くことができます。
・パッド
レポート用紙のように、水彩紙の上側が糊付けされていて、1枚づつ剥がして使います。


・スケッチブック(スプリング)
水彩紙がリングで閉じられているノート状のタイプ。作品がバラバラにならず、あとで見返すのに便利。


・カット
1枚1枚バラバラのシートタイプ。
・ロール
広い水彩紙を10mほどロール状に巻いた状態で販売されている。大きな作品を制作する際や、水彩紙が大量に必要なときに便利。
初心者におすすめの水彩紙
水彩初心者さんにおすすめの水彩紙を紹介します。
おすすめポイント
・様々な水彩技法がキレイにできる(グラデーションやウエットインウエットなど)
・リフティングができる(描いたあとでも修正が効く)
・画材屋さんでの取り扱いが多く、手に入りやすい
・比較的安価で販売されている
以下の3種類の水彩紙は、私が実際使ってみて、「おすすめポイント」をクリアしている水彩紙です。
ワトソン


初心者さんに一番おすすめなのが「ホワイトワトソン」です。
材質は、木材パルプとコットンの両方が使われていて、両方の特徴をほどよく兼ね備えています。
紙の色目は、「ワトソン」がクリーム色で、「ホワイトワトソン」が白色です。
大抵の画材店で取り扱いがありますので手に入りやすく、お値段も水彩紙の中では比較的安価です。
様々な水彩技法もキレイにできますし、マスキング液も使えます。
描いたあともリフティングが効くので、修正もしやすいです。
ただし、コットン紙と比べると紙の強度は弱いので、あまり何度もリフティングを繰り返すと紙を傷めてしまいます。
ヴィフアール


材質は、国産木材パルプです。
画材屋さんでの取り扱いも多く、お値段が安い点で、初心者さんが手軽に描くにはおすすめの水彩紙です。
ホワイトワトソンと比べると、水の弾きを少し強く感じます。
そのため、重ね塗りをすると下に塗った色が剝げやすいので、初めからある程度濃い目に色を載せていくとうまくいきます。
リフティングはよくできるので、修正はしやすいのですが、紙の強度はそれほど強くないので、繰り返しのリフティングは避けた方がよいです。
肌目は凹凸が穏やか。
細目はほとんどツルツルで、中目でも凹凸は穏やかです。
水彩紙の種類によって絵の具の発色は様々ですが、ヴィフアールは柔らかいふんわりとしたような発色です。
私の使ってみた経験からは、優しい雰囲気の作品に向いていると思います。
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とにかくコスパがダントツ良いです。
ブロックタイプで、300g/㎡ の厚みの水彩紙が、36枚で1冊になっていて、2冊セットで販売されています。
Amazonなどのネットショップで購入できます。
サイズは、229mm×305mmのみですが、初心者さんが練習用に使うのにちょうど良いサイズ感だと思います。
水彩技法もキレイにできますし、リフティングもできるので修正もしやすいです。
お値段が安い点もおすすめなのですが、更に初心者さんにおすすめできる点が、紙の強度が強いこと。
結構強くこすっても紙の表面が毛羽立ちしたり、ボロボロになったりすることがありません。
水張りがいらないブロック紙
水彩画は水を多く使って描くため、作品を描いているときに、どうしても紙が水分で波打って描きにくくなったり、へこんだ部分に絵の具が溜まってしまったりします。
水張りするとそんなことが防げるのですが、いちいち水張りをするのは面倒…。
そんなとき、水張りしなくても紙がデコボコにならないのがブロックタイプの水彩紙です。
紙の四隅が糊で固めてあり、作品をそのまま描いて、仕上がった後、紙を剥がします。


上の画像はブロック紙の側面です。
真ん中あたりの白っぽく色の違う部分は、糊付けされていない部分です。
作品が出来上がったら、この糊付けされていない部分にペーパーナイフなどを差し込んで剥がします。
大抵どのブランドの水彩紙にもブロックタイプが販売されていますので、水張りをしたくない方にはおすすめのタイプです。
ただし、どのブランドの水彩紙もブロックタイプはF10号サイズくらいまでのようです。
それ以上大きなサイズになると水張りが必要になります。



水張りの方法については、この記事を参考にしてみてくださいね。


水彩紙の保管方法
水彩紙は値段も高いし、セールの時に多めに買いだめして置いている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
実は、水彩紙は適切な保管をせずに長く置いていると、風邪をひいてしまいます。
水彩紙が「風邪をひく」とは??



水彩紙って風邪引くの!!



水彩紙も風邪をひきますよ。
でも人間みたいにくしゃみをしたりはしないわね。
水彩紙には、滲め止めの「サイジング」処理が施されています。
このサイジングは、高温多湿や、直射日光などによって効果を失ってしまいます。
そして、水彩紙は特に「湿度」にはとても弱いのです。
サイジング効果を失ってしまった状態を「水彩紙が風邪をひく」と言います。



水彩紙が風邪をひくと、どうなるの?



水彩紙が風邪をひくと、このような状態になります。
・水を弾かず、絵の具をすぐ吸いこんでしまう。
・絵の具がキレイににじまない。
・水が均一に広がらず、色を塗ったときにムラになる。



こんな状態になったら綺麗な絵は描けないね!



水彩紙が風邪をひいてしまうと、もう元には戻らないので、保管には気を付けなければいけません。
水彩紙が風邪をひかないための保管方法
ジッパー付きのビニール袋に水彩紙と乾燥剤を入れて、乾燥している状態を保ちます。
また、急激な温度変化は避け、日光(紫外線)や照明が当たらないような場所に保管しましょう。
遮光効果のある水彩紙専用の保管袋が、画材メーカーのクサカベより発売されていますので、こうした専用袋を利用してみるのも効果的です。



水彩紙は、購入したらなるべく早めに使ってしまいましょう。
まとめ
水彩紙選びは、作品の仕上がりに大きく影響します。
水彩紙には沢山の種類があり、それぞれに固有の特徴を持っています。
いろんな水彩紙を試してみるのも楽しいですよね。
その中からあなたの作品にピッタリの水彩紙を見つけてみてくださいね!



初心者さんにおすすめの道具選びもあわせて読んでみてくださいね!



